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世界のモダンハウス

世界各地の参考にしたい個人住宅を順次紹介していきます。
住宅展示場で実物を見る前にイメージを膨らませ、あなたの家づくりのヒントにしてください。

【第14回】素材を活かして自然に溶け込む家

建物外観。コンクリートに自然石を張っている。木製フレームとルーヴァーが良いコントラストを見せる。

砂丘の中のミニマリズム住宅

 オランダでアムステルダムに次ぐ第二の都市、ロッテルダム。その近くを流れるニューウェ・マース川沿いに下流へ行くと、河口にあるのが人口約9千人のフク・ファン・ホランドという港町である。英仏間を往来するのはドーバー海峡を挟んで海底トンネルと空路しかないと思う人が多いが、英国からこの街、フク・ファン・ホランドへはフェリー便が運行している。その船旅はなかなかの風情で知られている。この町にはキャンパーやサーファーに人気のあるビーチや砂丘があり、小さなミュージアム。また古い要塞なども観光スポットだ。今回紹介する住宅「ヴィラH」は、この砂丘の風景の中にぴったりと収まっている。設計者のベルグ+クライン(BERG + KLEIN)によれば、開放的な平面と良い眺望を持ち、限られた空間の中に施主の希望を生かしきることを目指したミニマリズム住宅である。

出展:google map

水平ラインを強調したフォルムの外観

水平ラインを強調したフォルムの外観/昼・夜

 「施主は、設計の打ち合わせの最初の段階で、自分のパーソナリティにフィットする住宅について、どういうビジョンを持っているかを明快に語ってくれたので、コンセプトづくりはスムーズになりました」と建築家は言う。チリ、メキシコ、ブラジルなどの現代住宅で気に入ったものを色々参照しながら、どんな建築にしたいか何度か話し合いを重ねた。その結果、コンクリート、木、自然石を組み合わせて、美しい自然の風景の中に、まるで元からあったかのように違和感なく溶け込む明るい家をつくることを目指しました」。

左:この家にとっての中心軸は階段で、ガレージのある地階に通じる。打ちっ放しコンクリートのラフな仕上がり。
右:庭に出るテラスは砂丘の林がよく見えるように細長く伸び、キャンチレバー(片持梁)により床が浮いているように見せている。

例)ホキ美術館(千葉市緑区)に使用されている30mキャンチレバーの回遊型ギャラリー
出典:NIKKEN JOURNAL 05-2010 Winter(http://www.nikken.co.jp/ja/archives/00127.html

 この家のデザインは水平に伸びる美しさを強調しており、唯一の垂直なエレメントとしては階段しかない。それは二つのコンクリート壁に挟まれた階段室をなして、地階、天井の高い一階、屋上のルーフトップ・テラスを繋げている。また、空間の構成は、この家の眺望に特化したものになっており、庭に出るテラスは砂丘の林がよく見えるように細長く伸び、リビングルームには暖炉がある。エントランスにはクラシックな前庭(ヴェスティビュール)があり、それぞれに印象的だ。パッと見には地味だが、棟の片側でキャンチレバー(片持梁)構造を採用しているのは設計上のポイントである。そのちょっとした浮遊感は、床から天井まで思い切ったガラス張りとした開放的な雰囲気にもふさわしくモダンだ。

温かみのあるミニマルなグラス・ハウス

最大7メートルにもなる大開口の窓は温かみのある木枠が使われている。

 この家の80パーセントは現場で打設したコンクリートを使っている。地階の壁と垂直壁で階段室を構成している部分は打ちっ放しのコンクリートである。高さ9メートルの耐力壁を最上の仕上がりのコンクリートにするために、現場で水平の型枠がまずつくられた。これを二台のクレーン車を使って家の中心に設置したという。
 建築的な家のタイポロジー(分類)で言えば、この住宅は、庭側に開いたファサードを持つ「グラス・ハウス」と言えるだろう。設計者も施主も、家が冷たい印象にならないための方法として、窓枠に大きな木のフレームを用いることにした。木枠は、染色された米杉でつくられ、一つの窓の寸法は、概ね幅2.30メートル、高さとしては3メートルとなっている。近くの林に沿うように伸びるテラス側では、3つのスライドする窓が入っており、最大7メートルを開口部とすることが可能である。ガラスには省エネ効果のある特殊なガラスを使って熱や光をカットしている。これだけの開口があるおかげで、庭とリビングは融合したように感じられ、石には天然石を用いているのもナチュラル志向だ。

ルーヴァーで遮光とプライバシー保護を

左:キッチン、ダイニング、リビング一体のワンルーム。中央にある暖炉がアクセントに。
右:ベッドルームとバスルームは、ルーヴァーとブラインドにより遮光とプライバシーを守られる。

 木製縦型ルーヴァー(日射を遮るために設けられた装置)がキャンチレバーの屋根と床の間で、建物周囲を囲い、影をつくりオープンなバスルームやベッドルームは、プライバシー空間を遮蔽している。電気、ガス、水道などインフラはサスティナブルなものを目指し、スライディングのガラス開口を使っての自然の換気通風を活用。屋上には植物を植え、ソーラーパネルや圧縮空気駆動式の冷暖房装置を完備している。

建物の8割はコンクリート製だが、内装に使われている木やラグ、家具などの印象で温かみが感じられる。

 インテリアに関しても建築家は施主とともに考え、色々と提案をしている。「オープンで温かみのある家」をテーマに、リビング、キッチン、ダイニングは一体化させ、これと対照的に、反対側にはベッドルームと書斎をまとめている。階段室が家の中心軸として位置している。
 施主のハイエンドな趣向に合わせ、ありきたりな内装にならないようにし、設計段階で家具や調度品のことも視野に入れていたという。家具には、カッシーナ、ヴィトラ、フロス、イームズ、リートフェルト・チェアなどの名作家具や逸品が選ばれている。

  この家は「素材のパレット」といえるくらい、施主の希望と設計者からの提案で様々な素材を選んで効果的に使っている。家を建てることは、土地探しから始まって、常に何かを選択することでもある。内装でも、木やクロス、石を多くの選択肢から選ばなくてならない。それは施主にとっての楽しみでもあり、ちょっとした試練でもある。住宅展示場に行ってモデルハウスを選ぶところからもう選択は始まる。まずは、そこへ出かけて一歩を踏み出してみよう。

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