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2017年7月 第12回 中庭を取り込んだ砂漠の住宅

建物はコートヤード(中庭)を囲むようなコの字型。中庭からリビング&ダイニングを臨む。

砂漠の街・アリゾナの家

 アメリカ南西部、グランドキャニオンで知られるアリゾナ州第二の都市、ツーソン。平坦な砂漠にひらけた都市で、メキシコとの国境にも近い。アリゾナといっても、日本人にとっては、サボテンと西部劇のイメージで知られているくらいで、あまり馴染みはないかもしれない。高さ10メートルもの背の高いサボテンがあちこちに聳えている。国立公園に行けば、そのサボテンが森のように群生しているのを見ることもできる。ネイティブアメリカンやスペインの影響を受けたメキシコの文化を融合した、アリゾナ・スタイルと呼ばれる独特な様式の住宅が立ち並び、美しい街並みを見せているところも多い。ピンクやパステル調の色使いや曲線を多用した造作、テラコッタなどを使った装飾や屋根など、温かみのあるデザインが浮かんでくる。
 今回紹介する住宅は、そんな伝統的なアリゾナ・スタイルの構成やレイアウトを生かしつつモダンでシンプルな外観で住宅地の一角にたたずんでいる。

複数の中庭が豊かな空間を生み出す

各部屋はドアをつけて仕切ることをしていないので、全てがオープンにつながっており、中の様子が分かる。

 この家があるのは、あまり特徴のない分譲地の一角である。土地のコンテクストを読み込んで設計する建築家にとっては、取り込んで生かすべき要素の少ないロケーションでの設計は苦労があったろうと思われるが、砂漠の街にふさわしいミニマリズム(必要最小限まで省略する表現スタイル)に基づき、アリゾナ・スタイルの空間構成も踏まえたデザインとなっている。

【平面図】ゆったりした四角の敷地に四方向から外部と融合する庭が入り込んで自然を感じることができる。

  1. 1. ENTRY COURTYARD
  2. 2. ENTRY
  3. 3. LIVING
  4. 4. DINNING
  5. 5. KITCHEN
  1. 6. PANTRY
  2. 7. COURTYARD
  3. 8. STORAGE
  4. 9. GARAG
  5. 10. GYME
  1. 11. MASTER BEDROOM
  2. 12. DEN
  3. 13. OUTDOOR LIVING
  4. 14. BEDROOM
  5. 15. OFFICE

 第一の特徴は、コートヤード(中庭)を積極的に取り込んで、インテリアとエクステリア、つまり外部と内部のボリュームを融通無碍につないでいること。面図を見ればより分かりやすいが、全方位で外部を引き込んでいる。玄関、リビングの横、ジムの隣、さらに建物の中央では、ベッドルームとホームオフィスが対面して中庭を共有するように置かれ、そこに植栽を配している。

リビング&ダイニングのソファの横から外に出ることができ、サンルームや坪庭を思わせる空間になっている。

建物の端にある書斎。二つ並んだソファの背後から外に出ることができる。庭越しにジム用の部屋が見える。

 コートヤードを境界としているおかげで、部屋から部屋へと移動する際の内部の動線はスムーズであり、遠くの山の風景を切り取って見ることもでき、さらに採光も申し分ない。
 それぞれのコートヤードは「ゼリスケープ」されている。ゼリスケープとは近年日本でも話題になっている言葉で、語源は「ゼロス(乾燥)」と「スケープ(造景)」から来ている。水を適切に使い、乾燥地にふさわしい景観を作ることである。発祥の地は、同じくアメリカ、コロラド州のデンバーである。デンバーでは7月から9月まで降水がほとんどなく、制限された給水の環境下でガーデンデザイナーたちは造園での効果的な水の使い方を工夫したのである。乾燥地アリゾナでも有効な工夫だ。

洗練されたヴァナキュラー建築

 施主は、アートのコレクションを趣味としており、地元ツーソン在住の作家の絵画や写真を数多く所蔵している。それを飾るように壁面も想定されており、白いブランクな壁が随所にある。

※ヴァナキュラー建築(スタイル)とは、土地の気候風土や環境、また伝統文化を生かした様式

ひさしが長く張り出して、アリゾナの強い日差しを遮る。内部は回廊のようでアート作品にふさわしい。

 採光を十分にとっているのも、アートギャラリーを意識しているからである。「白い空間はキャンバスのようなもの。アート作品を盛り上げる雰囲気をつくっている」と設計者はコメントしている。まさに砂漠の中のアートギャラリーのようにも見えてくる。

ホームオフィスは庭に面している。外壁の向こうの樹木は借景になっている。壁には造り付けの収納と猫の隠れ家がある。

 もう一つ、この家でユニークな点は、クライアントからの要望で設計者は、クライアントが保護する11匹の猫のための「ゾーン」も織り込んでいること。家具も含めて様々な場所が猫たちの生活や遊びのためにしつらえられている。猫があちこちに隠れたりするのに都合のよいスポットがあるのだ。

寝室には、地元アリゾナ在住のアーティストの制作した絵が飾られている。紫と濃いグレーが白い壁に映える。

 この住宅は純粋に建築としてみても、アリゾナ・スタイルの現代版として高い評価を受けており、アメリカ建築家協会賞も受けている。全体や部分のプロポーションは美しく、ヴァナキュラー・スタイル※を想起させつつも、さらにミニマリズムへと昇華させ、より洗練されたものにしているからだ。

向かって左の白い箱はガレージ。右はリビング。中央は白いフェンスで仕切り、アプローチは屋外である。

 赤土の上に置かれた白い箱のような外観は印象的である。コートヤードからの自然光は室内を明るくし、この効果はさらにガラスのドアによって奥まで行き渡るようになっている。屋外のルーヴァーや白いメッシュのフェンスなども内部を閉塞させることなく全体を外部や砂漠の空に向けて開いているように見える。また、南国の植物の植栽によってプライバシーは、ほど良く保たれる。
 設計したHKアソシエイツは、地元ツーソンを拠点に、キャシー・ハンコックスとマイケル・コトケの夫妻を中心とする設計事務所だ。二人はともに、カナダのダルハウジー大学とマニトバ大学で建築を学んだあと、設計実務を経て独立。「生活を豊かにする建築」を目指しているという。
 緑の滴るこれからの季節、住宅展示場で外の光を浴びながら、自分たちの自然の取り入れ方をあれこれ模索するのも楽しいもの。中庭をうまく作るのは有効な手法の一つだ。

Courtyards House
Location: Tucson, Arizona, United States.
Source: http://www.archdaily.com/870315/courtyards-house-hk-associates-inc
Architects :HK Associates Inc.
http://www.hkassociates.net
Photographs:Timmerman Photography/Bill Timmerman
Japanese original Text:Masaaki Takahasi

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