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世界のモダンハウス

世界各地の参考にしたい個人住宅を順次紹介していきます。
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【第31回】自然と融合し開放感あふれるウィークエンドハウス

インド・ゴア州に建つデザイン性と機能性を兼ね備えた月の家

プールのある中庭への広がりを感じるリゾート地に建つ家。

2人の有名建築家へのオマージュ

 インドの西海岸のマンドウィー河の河口にあり、インドでは最も小さい州といわれるゴア地方だが、古くからの良港を持つ文明の交差点として特異な歴史を持つ。14世紀にはイスラム、16世紀にはポルトガルの支配を受けた。ポルトガル領の時代には、「東洋のローマ」とも言われ、ヨーロッパの都市にも比べられるほど壮麗な建築物の立つ都市となった。日本にキリスト教をもたらした宣教師、フランシスコ・ザビエルはゴアから日本へと渡ったが、ゴアにあるボンジェス教会にはザビエルの遺体が安置されている。1960~70年代のゴアは欧米から来るカウンターカルチャーの一躍を担った人々、ヒッピーたちの聖地とされたが、今やその面影はなく、ファッショナブルなレジャー・リゾート地となっている。

出典:google map

 今回紹介する住宅はそんなゴアの海辺にある。「月」の出ている風景というコンセプトでデザインされた、アートごころ満載のポップで楽しい家である。設計者によれば、この住宅は二人の有名な建築家の作風を混ぜたような雰囲気にデザインされているという。1人はスリランカ出身の建築家、大自然と融合する独創的なスタイル「トロピカル・モダニズム」の第一人者と言われた、ジェフリー・バワ。もう1人は、流れるような曲線で構成されたダイナミックで造形的な建築をつくったイラン系英国人のザハ・ハディドである。東京オリンピック(2020)のための国立競技場でのザハの提案が土壇場で挫折したのはまだ記憶に新しいところである。
 月をテーマとした今回の家は、庭やランドスケープ(景観)と一体化し周囲の自然を取り込みながら安らぎの場をつくること目指した「トロピカル・モダニズム」スタイルに、アーク(円弧)型の曲線や垂直のデザイン要素などがミックスされている点が特徴だ。

月のモチーフとルーバーを多用した解放感

左:エントランス(夜景)。重厚感ある黒の外壁とルーバーによる解放感が対照的。
右:チーク材を用いた玄関扉。その片側は月のモチーフがみられる。

 敷地にもとからあった木々をルーバー(垂直に並ぶ仕切り板)で囲むように建てられ、緩くカーブして訪れる人を引き込むようなエントランスがある。地元産の黒いスレート(*)を使ったファサード(正面)は建物を特徴づける。エントランスはコンクリートでつくられた屋根の段と温かみのあるチーク材のドアがある。ドアには、太陰暦にならった月の満ち欠けが孔(あな)のパターンでデザインされている。夜間にはその隙間から光が漏れて月の運行を表しているのが分かる仕掛けだ。
*セメントに繊維素材を混ぜて、薄い板状に加工した建材



 
中庭のプール。曲線を使うことで、テーマである「月」を連想させる。

 中庭のプールは三日月を思わせる形に設計され、弧を描き、二つの住居棟を繋いでいる。ウィークエンドハウス(別荘)的な用途ではあるが、決して余裕のある敷地ではない。限られた敷地に目一杯、建てられているが、ところどころに空間の抜けがあり、窮屈さを感じさせない工夫がみられる。眺望などを期待できない条件を逆手にとり、庭やプールなど内側に視線が向かうような世界観で構成されている。

左:平面図。キッチンやリビングなどの団欒スペースとゲストのための独立した空間構成。
右:団欒スペースとゲストスペースはルーバーを使用した通路で適度な繋がりを演出。

 平面計画で見ると、部屋のレイアウトはプール両端にまとめられている。プールを中心として北東側は、リビングやキッチンを配置。南西側には、ゲストスペースを配置し、ルーバーのついた通路で繋がっている。このルーバーを多用している点がポイントだ。ルーバー越しに外部の自然を取り込み、セミオープンな空間とすることで内部と外部が一体化するよう工夫されている。

 

左:メイン空間である1階リビングは、プールのある中庭に向けて広がる。
右:中庭は、周辺の植栽も取り込み、解放感を感じることができる温室のような設計だ。

 2階まで吹き抜けで天井の高いリビングはプールへと繋がり、建物のメイン空間として、月面のクレーターを模したアート壁面が印象的だ。またプールのある中庭側に面したサッシは、折りたたみ式で全開口にすることができる。周囲の豊かな植栽やプールと地つづきになった床面によって、大きな温室の中にいるような気分を味わえる。

 

床材には、地元産のコータという石材を使い丈夫で均一な重厚感を感じさせる。

 この家は、インドの古来の建築様式にならいシンプルでありながら、象徴的な巨石の塊のようにデザインされている。屋根の打ちっ放しコンクリートはダイナミックで直線的なデザインのモダンな印象を与えつつ、建材には地元産の自然素材を用いている温かみを感じる。それが良くわかるのが、床に使われた地元産のコータという石材だ。コータは細粒石灰岩の一種できめが細かく高密度で、丈夫だ。浸透性が低いので壁や床、特にファサード(正面)などに好んで使われる。緑と青がはいったものが一般的だが、ピンク、グレー、ベージュのバリエーションもあり、この家でも落ち着きあるグレーやベージュのカラースキームでまとめている。

 

機能的でドラマティックな内部空間

 
左:1階北側にあるダイニングは、タイル張りの床と黒のチェアで引き締まった印象。
右:2階天井部(屋根)は、適度に傾斜をつけることで、日射を遮り、雨水もしのぐよう構成されている。

 熱帯にあるこの家は、庭の植栽、プール、ルーバー、たくさんの孔(あな)があいている多孔パーテーションなど装飾的に涼しげであるばかりでなく、実際に熱をよく逃がし、換気することで、住環境をクールに保つという目的をはたしている。北側のダイニングに面した大きなガラス開口は二重構造で染色されており、熱放射を促している。コンクリートの屋根部分は庇のように飛び出して日射を遮ると共に、この地方特有の大量の雨水に耐えるように考えられている。
 この住宅で最も注目すべき点は、建物内での移動に屋外のウォークウェイ(通路)を設けている点である。自然を体感しながら移動することで、時々に合わせた物語が生まれそうなドラマティックな風景が見えるのだ。

光と影のコントラストが美しい空間。家具はシンプルにまとめることで統一感が生まれる。

 ゴア地方には「セガド」という言葉がある。ポルトガル統治時代に、「静かな」という意味のポルトガル語から入った言葉で、リラックスしてゆったりと過ごすことを指す。この月の家でしつらえた光と影の絶妙な関係が「セガド」の時間を現実のものとしている。家具はオーソドックスな形の木とファブリック(布製品)が多く、色は茶やグレーをベースとしている。多用されるルーバーをイメージするような脚のテーブルや照明のシェードもシンプルなものを使って爽やかである。

 シンボルやテーマを決めてデザイン性を楽しむのはもちろん、暮らしやすさを考えた機能性やシンプルさが調和した家は、これからの家の在り方を示しているように感じられる。そんなデザイン性・機能性を兼ね備えた適度なバランスを実現するには、数多くの商品を有するハウスメーカーに相談してみるのもいいだろう。

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